母乳は赤ちゃんにとって必要な栄養がたくさん詰まった天然の完全食とされていますが、母乳の中にはどのようなビタミンが含まれているのでしょうか?
そこで今回は、
・どんなビタミンが母乳に含まれているの?
・それぞれのビタミンの働きについて知りたい!
・ビタミンが不足したらどうなるの?
といった方に、母乳の中に含まれるビタミンの種類や、そのビタミンが持つ力の秘密について詳しくご紹介します。
ビタミンとは
色々な栄養素がありますが、ビタミンは三大栄養素である炭水化物、たんぱく質、脂質が体内でしっかり働く助けをする栄養素で、主に体の調子を整える働きがあります。
ビタミンにも色々な種類があり、脂溶性のビタミンA,D,E,K、ビタミンB群、水溶性のビタミンCやビタミンB1、ビタミンB2などがあります。
ビタミンは他の栄養素とお互いに助け合って働くので色々なビタミンをバランスよく摂取することが必要です。
母乳に含まれるさまざまなビタミン
母乳には色々なビタミンが含まれています。主に、ビタミンA,D,E,Kが含まれていますが、これらは脂溶性で水に溶けにくく、油に溶けやすいビタミンです。
脂溶性ビタミンは母体に常に蓄積されているので足りなくなることはほぼありません。それぞれのビタミンの働きを見てみましょう。
ビタミンA
ビタミンAは皮膚や粘膜を健康に維持する働きがあります。特に口腔、肺、消化器官、膀胱の粘膜や皮膚を正常に保ちます。
皮膚や粘膜は、ウィルスなどの外敵から体を守る役割があります。また、目が光を感知するために必要な、ロドプシンという物質を作ります。
緑黄色野菜に多く含まれるカロテンが、体内でビタミンAに変化します。
ビタミンB群
ビタミンBには色々な種類があります。ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ナイアシンなどです。
ビタミンB群の働きは、主に糖質や脂質やタンパク質の代謝を促し、人間が生きていくためには欠かせない栄養素です。
このため、体内での消費も大きいので、ビタミンB群をしっかりとらないとすぐに不足してしまいます。
糖質の代謝を助けるのがビタミンB1、細胞の再生を促すのがビタミンB2、皮膚や粘膜の健康を維持してくれるのがビタミンB6です。
ビタミンC
ビタミンCはコラーゲンを生成し、血液の白血球の働きを強めます。ビタミンCは熱に弱い性質があります。
母乳からのビタミンCによって、赤ちゃんの脳細胞を活性化するといわれています。また、ビタミンCはストレスと軽減や鉄分の吸収をアップさせてくれます。
ビタミンD
ビタミンDは、体に必要なカルシウムを効率的に吸収させます。
成長期の赤ちゃんにとっては、骨や歯を作るために必要なカルシウムを取るためにも、ビタミンDは欠かせない栄養素です。
ビタミンDは体内のカルシウムの量を調整する働きもあります。カルシウムは赤ちゃんの骨や歯の形成に必要という認識がありますが、その他にも色々な役割があります。
例えば、血液や筋肉にも存在していますし、血液や筋肉の収縮、神経伝達の働きにもカルシウムが関わっています。
成長期の赤ちゃんには欠かせないカルシウムの調整に必要なのが、ビタミンDなのです。
カルシウムは体内に多ければ多いほど良いというわけではなく、その必要量を見極めて取り込んだり、排出することが必要であり、その調整を行うのがビタミンDです。
母乳に含まれるビタミンDは、まだ歯のない赤ちゃんに綺麗な歯をもたらします。また、綺麗な歯並びになるためにもビタミンDは欠かせない栄養素です。
インフルエンザに対してもビタミンDが有効であるということも分かっています。
ビタミンE
ビタミンEは血液や血管を発達させたり、細胞の結合を安定させる働きがあります。また、体の不調を予防したり、改善したりします。
母乳に含まれるビタミンEは、抹消の血管を拡張して血行を促すので血流を良くし、活性酸素を除去する働きがあるので、アトピー性皮膚炎の改善の効果もあります。
また、ビタミンEとカルシウムが相互に働きあって骨の細胞を活性化したり、ホルモン分泌が活発になります。
赤ちゃんにとっては、身長を伸ばす効果が期待できます。肌に潤いを与えるので乾燥しがちな赤ちゃんの皮膚をかゆみから守りますし、ビタミンDがビタミンCの働きをサポートすることで免疫力が上がり、風邪や病気の予防に繋がります。
ビタミンK
ビタミンKは、出血を凝固させる作用があります。また、骨からカルシウムの溶出を防ぐ役割があります。
ビタミンが不足するとどうなるの?
さまざまなビタミンについてご紹介しましたが、では、これらのビタミンが不足するとどんな影響があるのでしょうか。
ビタミンA
ビタミンAの中でも、特に動物性食品に含まれるレチノールは、妊娠初期にお母さんが過剰摂取することで胎児の奇形の原因に繋がるので危険であるとされています。
また、一般的にもレチノールの過剰摂取は頭痛、吐き気、疲労感、骨障害、脂肪肝などになる可能性がありますが、緑黄色野菜から摂るベータカロチンは、体が必要とする分だけ体内でビタミンAに返還されるために過剰症の心配はありません。
このように過剰摂取が気になるビタミンAですが、皮膚や粘膜を健康に維持する働きがあるため、不足しても同じように、胎児の奇形や発育不良の危険があります。
多すぎず、少なすぎず、バランスよく摂取するように心がけましょう。
ビタミンB群
ビタミンB群が不足すると、エネルギー不足になりやすいために疲れやすく、すぐにイライラしたり、やる気がでないということになります。
母乳の中に含まれるビタミンB群が不足すると、それを飲んで生活している赤ちゃんがビタミンB不足になり、精神状態が安定しないために夜泣きが酷くなるといわれています。
また、ビタミンB群は神経伝達物質であるメラトニンの生成にも関わっています。メラトニンは別名睡眠ホルモンとも呼ばれていますが、精神を落ち着かせて心地よい睡眠をもたらします。
このメラトニンを生成するためには、セロトニンという成分です。セロトニンは体内時計を調節して、生活リズムを整えます。
別名幸せホルモンと呼ばれていますが、セロトニンの生成にはビタミンB6が不可欠です。
ビタミンB6が不足すると、幸せホルモンのセロトニンが分泌されず、セロトニンが分泌されないと、睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌されません。
ビタミンB6が不足すると、これらのホルモンの分泌が悪くなるために赤ちゃんの夜泣きが心配されます。
ビタミンC
ビタミンCが不足すると、赤ちゃんの脳の発達が悪くなる恐れがあります。
また、ビタミンC不足のために風邪を引きやすい体質になります。また、血液中の鉄分が不足して貧血気味になってしまいます。
ビタミンD
ビタミンDは、赤ちゃんの骨を作ったり、健康に深く関わるビタミンですが、残念ながら母乳にはビタミンDの含有量が少なく、母乳だけでは赤ちゃんに必要なビタミンDは一般的に不足すると考えられています。
最近は母乳育児が重要視されているため、母乳にこだわるお母さんも多いので、新生児のビタミンD不足によるビタミンD欠乏症が増加しています。
ビタミンDは骨の形成に大きく関わっていますので、骨軟化症、頭蓋骨軟骨化、くる病の患者も増えています。
くる病というのは、栄養状態の悪い昔は患者数も多かったのですが、骨が柔らかくなってO脚やX脚になったり、手足の関節の変形や発達の遅れ、身長の伸びが悪いなどの症状があります。
このくる病も、2000年以降患者数が再び増加しているのは完全母乳で育児をしているお母さんが増えたことが原因しています。
ビタミンE
母乳を飲む赤ちゃんのビタミンEが不足すると、溶血性貧血という、血液の赤血球が破壊されることによって起こる貧血になることがあります。
ビタミンK
ビタミンKは体内では生成されません。そのため、母乳からか離乳食からしかビタミンKは摂取できません。
新生児の場合は、ビタミンK不足にならないためにシロップを投与されます。しかし、母乳には、ビタミンKが含まれているといっても少量しか含まれていません。
このため、完全母乳で育っている赤ちゃんは、ビタミンKがどうしても不足してしまいます。生後半年までの赤ちゃんは、出血を抑えるための凝固因子が不足しています。
この凝固因子を補うのがビタミンKであるとされています。母乳だけを飲んでいる赤ちゃんは、母乳に含まれるビタミンKだけでは不足してしまうので、出血しやすい状態になっています。
ビタミンKが不足しがちな赤ちゃんが発症しやすい病気として「新生児メレナ」というものがあります。
新生児メレナは消化器官から出血することで、吐血したり下血したりします。赤ちゃんのオムツ交換のときに下血していることがある場合は、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。
また、特に生後1ヶ月ころの赤ちゃんは、突発性ビタミンK欠乏性出血症を起こしやすく、その割合は千人に一人の割合で起こります。
酷い場合は、頭蓋骨内で出血することもあるので注意が必要です。そして、完全母乳で育てられている赤ちゃんは、粉ミルクで育っている赤ちゃんに比べて突発性ビタミンK欠乏性出血症になりやすいといわれています。
また、生まれつきの先天性胆道閉鎖症の赤ちゃんなどは、肝機能障害や治療に使われる薬品投与のために、ビタミンK不足によりなりやすいとされています。
母乳のビタミン不足を補う方法は?
母乳は天然の完全食で、近年母乳育児の良さが見直されています。
しかし、その反面、お母さんの食事での栄養が、母乳に直接あらわれてしまうので、母乳育児をしているお母さんの食事は重要です。
しっかり栄養素を考えて食事をする必要もありますし、母乳に悪影響のある食品などは極力食べないようにすることも大切です。
また、お母さんが努力しても、母乳だけでは必要な量を完全にカバーできないというビタミンの種類もあります。
母乳育児をしているお母さんは、特に自分の毎日の食事と母乳との関係を把握する必要があります。
ビタミンA
ビタミンAを多く含む食品は人参、にら、小松菜、ほうれん草などの緑黄色野菜や魚、特にスズキに多く含まれますので、母乳を飲ませているお母さんは積極的にこれらを摂ることが大切です。
ビタミンB群
ビタミンBには色々な種類があり、普通の食生活をしている日本人には不足することはないとされていますが、最近は食生活が乱れている人も多いので、ビタミンB不足になっている人もいます。
このため、母乳を与えているお母さんは、ビタミンBを多く含む、肉類、ウナギ、魚類、納豆、玄米、ピーナッツ類、枝豆、菜の花などを意識的に摂取しましょう。
ビタミンC
ビタミンCといえばレモンが思い浮かぶ方が多いですが、オレンジなどのかんきつ類や野菜にも多く含まれています。
加熱すると破壊されてしまう性質があるので、果物を生で食べたり、生野菜のサラダで食べるのがおすすめです。
ビタミンD
ビタミンDは日光とも関係の深いビタミンです。食べ物から補給する他に、日光の紫外線を浴びることで体内にビタミンDを作っています。
最近では、赤ちゃんのUVケアは当たり前のことになっています。アトピー性皮膚炎の赤ちゃんが増えたことなどから、赤ちゃんに日光を当てたくないというお母さんが増えました。
このような影響から、日光に充分当たることができずに、赤ちゃんの骨が軟化してきているといわれていますので、まったく日光に当たらないというのではなく、適度に日光浴をすることが大切です。
ビタミンE
ビタミンEは油脂類やナッツ類、魚介類や野菜類などに多く含まれています。ヒマワリ油、あゆやうなぎ、アーモンドや落花生、西洋かぼちゃ、モロヘイヤなどに含まれています。
ビタミンK
完全母乳で育つ生後6ヶ月までの赤ちゃんは、ビタミンKがどうしても不足してしまう場合があるので、現在の産婦人科では、生まれたとき、生後1週間、生後1ヶ月にビタミンKのシロップを投与します。
「K2シロップ」というビタミンKの薬ですが、口から飲むことができない場合は、注射などでビタミンKを体内に注入します。
ビタミンKが不足すると、突発性ビタミンK欠乏性出血症になってしまうことが多いのですが、統計を取ると西日本にこの病気を発病する赤ちゃんが多いとされています。
このことからも、西日本の食生活が原因しているのではないかとされています。
母乳育児をしているお母さんは、母乳がビタミンK不足にならないためにも、納豆や緑黄色野菜など、ビタミンKが豊富に含まれている食品を意識的にたくさん食べることが大切です。
母乳にビタミンKが不足しがちであるということだけで、完全母乳育児を考え直す必要はありませんが、ビタミンK不足を解消するという意味でも、母乳で育てながらも人工の粉ミルクを併用してみたりすると、ビタミンK不足が解消されます。
まとめ
母乳には色々なビタミンが含まれています。ビタミンにはそれぞれ赤ちゃんの成長に欠かせない役割があります。
しかし、母乳には豊富なビタミンもありますが、母乳だけでは赤ちゃんの成長に不足してしまうものもあります。
不足が心配されるビタミンは、お母さんが積極的に食事で取り入れたりして、母乳のビタミンの量を増やすことも大切です。
また、人工の粉ミルクなど、赤ちゃんに必要なビタミンをしっかりカバーしたミルクなどを利用して、ビタミン不足を補うのも良い方法です。