赤ちゃんを育てるのにもっとも適した栄養源である「母乳」。
そこで今回は、
・母乳で育てたい!
・正しい授乳の仕方とは?
・母乳を与えるにあたって注意することは?
といった方に、母乳育児を始める前に知っておきたい、注意点について詳しくご説明します。母乳のことを考えた食事についてなどのお役立ち情報も満載です。
母乳とは?
ヒトを含む哺乳類は、みな太古から母親の母乳によって生まれた子どもを育ててきました。母乳には子どもが発育するのに必要な成分が、適切な量、適切な状態で含まれています。
母乳には栄養分以外にも、細菌やウイルスなどから赤ちゃんを守る免疫グロブリンや数種類の抗菌物質、脂肪分解酵素のリパーゼなどを含み、赤ちゃんの体を守り育てます。
母乳栄養の赤ちゃんは、人工栄養の赤ちゃんと比べると感染症にかかりにくく、また乳幼児突然死症候群(SIDS)や糖尿病、心筋梗塞、気管支喘息、アレルギーなどのリスクも減るといわれています。
また、赤ちゃんはおっぱいを吸うときに顔にあるいくつかの筋肉を使いますが、この運動によって頭や脳への血流が促進され、脳の成長に良い影響がもたらされます。
正しい母乳の与え方
赤ちゃんは、おなかが空くと泣いておっぱいを要求します。母乳栄養の場合、赤ちゃんが欲しがるとき、飲めるだけの母乳を与えて構いません。
まずは授乳する前に、おむつを替え、手を清潔に洗います。汗をかいているときなどは、乳首を洗浄綿や濡れタオルなどで拭ききれいにします。
それからお母さんが楽な姿勢で赤ちゃんを抱き、おっぱいへ赤ちゃんの顔を近づけます。乳輪部分まで深くふくませることが大切です。乳首だけ吸わせると乳首を引っ張られ傷つく場合があります。
15分くらい吸わせたら、反対のおっぱいに替えます。1度の授乳で左右両方のおっぱいを飲ませます。
授乳が終わったら、赤ちゃんの口のまわり、お母さんの乳首についた母乳や唾液を洗浄綿や濡れタオルなどで拭きとります。
乾燥して皮膚を傷めるのを避けるため、赤ちゃんの口のまわり、お母さんの乳首にローションなどを塗って保湿しておきましょう。
赤ちゃんを肩に乗せるように立て抱きにし、背中を軽くさすってゲップをさせます。赤ちゃんは母乳とともに、大量の空気を胃の中に吸い込みます。
これをミルクとともに吐き出して気管や食道を詰まらせる危険があるため、ゲップをさせることを忘れないでください。
詳しくは、赤ちゃんにげっぷが必要な理由とゲップを上手くさせるコツの記事でご説明しています。
授乳期間中のお母さんはおっぱいが張って母乳が沁み出すことも多いので、ブラジャーの中に母乳パッドを入れておきましょう。母乳が染み出しても安心で、乳首をやさしく守ることができます。
母乳に潜む問題
母乳が赤ちゃんにとって最良の栄養であることは確かですが、必ずしも完全無欠というわけではありません。母乳にも危険な点・注意すべき点があるので、良く理解し、赤ちゃんに悪影響が及ばないよう気を配ることが大切です。
母乳の汚染
母乳はダイオキシン、PCB、環境ホルモンなどによって汚染されていることが世界規模で確認されており、日本も例外ではありません。
たとえば日本において母乳に含まれるダイオキシンの量は、厚生省が発表している耐容1日摂取量(毎日摂取しても健康に影響がないとされる量)の数倍〜10倍以上に及びます。
現在のところ、母乳に含まれるこれら有害物質が赤ちゃんに及ぼす影響についてはまだ明らかにされていません。
WHOや日本の厚生労働省は、母乳の汚染を認めつつも、母乳がもつ栄養や免疫などの利点を考えると、母乳栄養の推進をやめるべきではないという見解を示しています。
ウイルス感染
お母さんが成人T細胞白血病(ATL)や後天性免疫不全症候群(エイズ)に感染している場合、母乳を介して原因ウイルスが赤ちゃんの体にも侵入します。
これらの病気は発病するまでの期間が長く、何の自覚症状がない場合でも、感染していて原因菌を体内に保有していることがあります。人工栄養を選択することで、母乳を介しての感染を防ぐことができます。
母乳はお母さんの血液からつくりだされますから、お母さんの血液の状態が母乳に影響し、赤ちゃんの健康を左右します。
お母さんの摂る食事
お母さんが摂る食事の栄養組成は母乳の成分を決める要因となり、赤ちゃんにとって望ましい栄養成分をもつ母乳となるか、偏りのある母乳となるかを決定づけます。
またお母さんが薬や刺激物、タバコやアルコールを摂取すると赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼす、有害な母乳になってしまいます。母乳育児では、お母さんが口にするものをつねに正しい目でチェックすることが大切です。
母乳のことを考えた食事
授乳中は母乳に与えるカロリー分を加え、ふだんより350kcal多く摂取する必要があります。少し多めに食べてよいわけですから、神経質にならず、バランスのとれた食事を心がけましょう。
授乳期間中の食事で気をつけるべきことは
・赤ちゃんに必要な栄養素を摂る
・赤ちゃんに悪影響を与える食材を摂らない
・母乳が出やすくなる食材を摂る
・母乳が詰まって乳腺炎になる原因になる食材を控える
といった点です。
赤ちゃんに必要な栄養素
たんぱく質、カルシウム、鉄分はとくに注意して摂取するよう心がけましょう。お母さんがカルシウムを摂っても摂らなくても、母乳には一定量のカルシウムが入っています。
このカルシウムは、お母さんの骨から摂り出されたものです。このためお母さんは母乳をあげるたびに、自分の骨のカルシウム分を赤ちゃんにあげることになります。
お母さんの骨粗鬆症を防ぐためには、カルシウム量の十分な回復が欠かせません。授乳期間中は油脂分が高い牛乳を大量摂取することは控えなければならないので、魚介類(丸干しイワシ、ちりめんじゃこ、桜エビなど)や大豆製品(豆腐、納豆など)から摂るようにしましょう。
カロリーの主体となる主食には、米が最適です。一日三食、一食二膳ずつのご飯を食べるようにしましょう。
十分なおっぱいが出るようにするためには、たくさんの水分摂取とおっぱいの分泌を促進する食材の摂取が必要です。食事で摂る水分以外に、一日3リットル、夏場なら5リットルの水を飲むよう心がけましょう。
麦茶、ほうじ茶、番茶、ルイボスティーなど、カフェインが多過ぎないお茶などで摂ってください。母乳がよく出るハーブティーも売られているので試してみても良いでしょう。
詳しくは、母乳不足に効果的なおすすめハーブティーの記事でご紹介しています。
土の中の食べ物(イモ類、大根、ごぼう、にんじんなど)は母乳に良い食べ物とされます。
野菜は、生野菜サラダなどは体を冷やし母乳の出を悪くするので、おひたし、温野菜、シチューや鍋物など体を温めるメニューで摂るのが良い方法です。
母乳が出にくいときは甘酒、お汁粉、団子や餅など脂肪の少ない和菓子などで少しカロリーを高めてみると改善される場合があります。
ただし、一度に大量摂取すると母乳が出過ぎたり、濃くなり過ぎて乳腺炎の原因になるので控えてください。
カロリーの摂り過ぎにも注意が必要
カロリーの摂りすぎは、母乳が過剰に作られすぎたり母乳がどろどろになる原因となり、乳腺が詰まって乳腺炎を引き起こす場合があります。
餅などの高カロリー食材、脂肪分が多い洋菓子(ケーキ、チョコレート、カステラ、クッキーなど)、ナッツ類、魚卵類、脂身の多い肉類、揚げ物などは多く摂らないよう心がけてください。
牛乳も油脂分が多いので控え目にするのが無難です。和食は脂肪分が少なく、バランスを取りやすい優れた食事です。和食中心のメニューにすることで脂肪摂取を抑え、乳腺炎を予防することができます。
控えた方がよい食事
カレー・キムチなどの辛味の強い料理、唐辛子・豆板醤などの辛味調味料は赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性がありますから極力控えましょう。コーヒーのようなカフェインの強い飲み物も多量に摂らず、どうしても飲みたいなら1日1回程度に留めましょう。
自分の食事が赤ちゃんのアレルギーの原因になることを気にするお母さんがいるようですが、心配する必要はありません。乳製品でも、卵でも、小麦や大豆でも、食べる量が常識的な範囲であれば、母乳を介して赤ちゃんがアレルギーになることはありません。自分でアレルギーになりやすい食材を判断して除去すると、無駄に気を使って、結果栄養バランスを欠くことになるのでかえって逆効果です。
薬とお酒・タバコはガマン!
授乳期間中、薬は原則として飲まないでください。お母さんが飲んだ薬は微量ですが母乳を介して赤ちゃんが摂取することになります。
赤ちゃんへの影響は限られているとされますが、赤ちゃんは薬を排出する力が不十分なので、用心しなければなりません。
お母さんが病気でどうしても薬を服用しなければならない場合は、医師や薬剤師に授乳中であることを伝えて指導してもらうようにしましょう。
赤ちゃんへの影響がないと判断された場合は心配せずに薬を服用し、授乳を続けて構いません。場合によっては薬を服用する間、一時的に授乳を中止し、人工栄養に切り替えるよう指導されることもあります。
また、お母さんがたばこを吸うと、母乳を介してニコチンなどの有害物質が赤ちゃんに摂取されます。タバコは赤ちゃんに呼吸器感染症や気管支喘息などの呼吸器疾患、アレルギー疾患などを引き起こす可能性を高めます。
他にもアルコールは、非常に顕著に母乳に影響します。お母さんがお酒を飲むと、母乳のアルコール濃度は最大で、お母さんの血中濃度と同程度になります。
肝臓機能が十分でない赤ちゃんがアルコールを摂取すると、アルコールの分解がうまくできず、発育を阻害したり肝臓に大きな負担をかける可能性があります。
授乳期間が終わるまで、お酒、タバコはやめましょう。赤ちゃんが将来アルコール依存症へと移行する可能性もあるいわれています。
おっぱいのトラブルとケア
授乳時のトラブルで多いのは、乳首に傷ができてしまうことです。赤ちゃんが乳首を噛んだり、引っ張ることで傷ついてしまう場合がほとんどです。
授乳する際に赤ちゃんが乳首だけをくわえていると強く引っ張ってしまうので、乳輪まで深くくわえさせるようにすると傷つきにくくなります。
また、ときどき授乳の姿勢を変えることで乳首の刺激を受ける部分を一点に集中しないようにすることも効果的です。
乳首はふやけると傷つきやすいので、傷になりそうな時、傷ができてしまったときは片方の乳房の授乳時間を短くしてみましょう。
傷の痛みで授乳が厳しいときは、無理せずに授乳を2〜3日休み、傷を完治させることを優先しましょう。また、乳頭保護器(ニップル)などで保護するのもおすすめです。
乳腺炎は乳腺が詰まって炎症を起こした状態です。乳房に痛みや熱感、張りを感じ、重くなると乳房が赤く腫れたり高熱を出す場合があります。ふだんから乳腺を詰まらせないよう注意することが大切です。
飲み残した母乳がある場合は、絞って出し切るようにしましょう。
高カロリーな食べ物、脂肪が多い食べ物は乳腺を詰まらせる原因になりますのでなるべく控えることが大切です。乳腺炎になってしまった場合は授乳を止め、病院で診察を受けましょう。
授乳時の汗は要注意!
授乳しているときは赤ちゃんとお母さんの肌が密着するので、お互いに汗をかきます。
暑い時期には汗疹ができやすくなります。汗疹を防ぐためには下着やタオルなどに吸湿性の高いものを使い、しっかり汗を吸い取るのが効果的です。
お母さんはTシャツなどよりも前を開けられるブラウスなどの方が、通気性が良く適しています。母乳パッドには綿製の洗えるタイプを使うと蒸れにくく快適です。
授乳時には赤ちゃんの頭とお母さんの腕の間にタオルや腕カバーをはさんだり、赤ちゃんの背中にガーゼを入れるなどするとかなりの汗を吸収することができます。
母乳が出ない!足りない!そんな時は・・・
お母さんの母乳の量には個人差があります。お母さん自身、母乳の量が十分でないと気付く場合以外にも、赤ちゃんが30分以上お乳を吸ったまま離さなかったり、機嫌の悪い状態が長時間続くようなときは、母乳不足の可能性があります。
便が出にくい日が続いたり、体重の増加が不足する場合も授乳量が足りていないことが疑われます。
母乳の量が足りない場合は、足りない分を人工栄養で補う混合栄養にする必要があります。授乳時はまず母乳を与え、母乳が出なくなったら育児用ミルクを飲ませるようにします。
最初からミルクを与えるのではなく、まず母乳を与え、不足分をミルクで補うという方法を守ることが大切です。
赤ちゃんが欲しがったときに母乳がまだたまっていないという場合は、1回とばしで母乳の回、ミルクの回という与え方をします。混合栄養では、母乳を継続できなくなりがちです。根気強く母乳を続け、ミルクはそれを補うために与えるという方法をとることが望まれます。
母乳がでない!?今すぐ試せる母乳不足の解消法!では、母乳不足の解消法をご紹介しています。
母乳が出る乳房マッサージ
乳房マッサージの基本は、基底部にある血管の流れを良くすることで、母乳のもとになる血液の循環量を増やすことにあります。
また、乳頭・乳輪部をマッサージすることで、赤ちゃんが吸いやすく、裂傷が起きにくいおっぱいにする効果があります。
助産婦や医師などのプロが考案したマッサージが数多くあります。赤ちゃんを抱えて通院する手間も必要なく、自宅で簡単におこなえるマッサージ方法を出産前から覚えておくと、産後の授乳育児に活かすことができます。
自治体などの母親学級では、母乳などの指導はあまりしていませんが、産院などでおっぱい外来などと称し開催していることもありますので、一度は参加してみるといいでしょう。
乳房マッサージは、病院での許可がでてから行いましょう。