妊娠中には、個人差がありますが、体のあちらこちらに違和感を持つことも多く、妊娠前でしたら感じなかったことも敏感になり、気になってしまうことがあります。
出産準備に向けて、母体の状態も刻々と変化していきますので、妊娠前とは違った感じがすることは、少なからず誰もがあることです。
そのような中で、今までは気付かなかったものの、わきの下やおなかの辺りに、小さな膨らみやしこりのようなものを見つけることがあります。
普通正常な乳房の位置は、両側の前胸部に左右対称にあるものですが、人によっては、通常の位置とは異なる場所に、乳頭のようなものや、乳輪のようなもの、少し陥没したえくぼのようなものを見つける場合があります。
これらは、もしかしたら「副乳」かもしれません。もちろん、副乳を持っている方は、それまでに見つかっていなかったとしても、生後間もない赤ちゃんの頃から持ち得ているものですので、妊娠時でなくても感じている方はもちろんいます。
しかし、妊娠時にわきの下の違和感が気になり始め、からだの変化とともに、初めて副乳を見つける方も少なくないのです。
そこで今回は、
・副乳って何?
・副乳は取り除けるの?
といった方に、副乳について詳しくご説明します。
副乳とは
では、「副乳」とはどのようなものなのでしょうか。副乳は一言でいうならば、退化しきれなかった乳房の名残のことです。
人間は哺乳類の一種ですが、人間以外の哺乳類を見てみると、乳房の数が複数あるものも多くなっています。
ウシは左右2対で4個の乳房を持っていますし、イヌは4対で8個、ネコは5対で10個といった具合です。
哺乳類の仲間である人間の乳房は、通常左右1対で2個になっていますが、これは、他の哺乳類と同様に、以前は複数の乳房があったものの、人間が進化していく過程で、2個になったとものと考えられます。
その名残として退化しきれなかった乳房が、「副乳」として残っているのです。
男性にも見られる副乳
男性は、母乳の生成をしないため、女性のように乳腺組織や乳房は発達しませんが、同じ哺乳類であることを考えても複数の乳房が退化していったと考えられます。
そのため、副乳は女性特有のものなのではなく、少ないながらも、男性にも見られるものなのです。
副乳を持っている方は意外にも多く、女性の5%、男性でも2%の方が持っているともいわれています。
ある調査によると、欧米人には副乳の発症率が1〜2%であるのに対して、アジア人は5〜6%とその割合も高くなっています。
副乳の原因
副乳は、妊娠時のからだの変化とともに、初めて気付く方も多いものですが、実は、お母さんの胎内にいる時には、その素となるものができています。
胎生6週目頃には、乳腺の元となる「乳腺元基」ができ始めます。そして、胎生9週目頃には1対の乳房が成長し、次第に正常な乳房へと発達していきます。
通常、1対の乳房は成長を続けていきますが、残りのものは退縮していきます。そのため、多くの場合は目立たなくなり、ほとんどの方が副乳の存在に気付かないのです。
妊娠中は、副乳に気付きやすい
もともと人間には、9対の乳房組織があるという研究家もいます。乳房組織の退縮の程度によっては、副乳として残っている場合があります。
新生児にも副乳が見られることがあるのは、そのためです。副乳の残り方もさまざまで、左右両側ではなく片側だけに確認できる場合や、男性であっても副乳を確認できる方もいるのです。
副乳の中でも、乳腺組織が残っている「副乳腺(多乳房症)」や、乳頭だけが目立つ「副乳頭(多乳頭症)」、また、乳輪だけが残っているものがあります。
副乳の存在に気付くのは、女性ホルモンの分泌が活発になる思春期や妊娠時が多いものですが、特に妊娠時には、色素も濃くなり目立つことで気付く方も多くなっています。
副乳が頻繁に発見される位置ミルクライン
副乳のできる位置は、ほぼ決まっています。哺乳類の多くが、前足のわきの下から後ろ足や恥骨にかけて、「乳腺提」といわれる弓状線が走っています。
また、乳腺は、両わきの下から恥骨の方向に、内ももにかけて伸びています。
副乳のできやすい部分も、両わきの下から恥骨の方向に内ももの辺りまでのライン上になりますが、そのラインのことを乳腺(ミルクライン)といいます。
このミルクライン上では、乳房が発達する要素は持ち得ていますので、どの位置に副乳といわれる膨らみが見られても不思議ではないことになります。
妊娠時は特に、分泌されるホルモンが多く、乳房などはこのホルモンの影響を受けますので副乳が普段よりも大きくなってくることがあります。
ホルモンの影響が関わることなので、気になる副乳の色素や膨らみなどの症状も、一時的なものです。
出産後授乳が終わる頃には、やがて副乳も小さくなり、徐々に目立たなくなってくることが多いので過度に心配する必要はありません。
副乳からまれに母乳もでる
妊娠中に大きくなったり、色素が濃くなったりして初めて発見する方が多い副乳ですが、中には妊娠時以外の生理中にも同じような変化や痛みなどを感じている方もいます。
副乳そのものは、小さなものですので妊娠することで極端に大きく腫れることはありません。
しかし、乳腺組織を有している場合、そのふくらみも大きく、中にはそこから母乳が出る方もいます。
特に気にしなくても、自然とおさまるケースがほとんどですので、あえて特別な処置は必要ありません。
病気などとは異なりますので、そのまま放置していても問題が起こるというわけではありません。
妊娠時の副乳の状態
乳房や乳腺組織は、妊娠時には母乳を作る準備が始まりますし、出産後には母乳がたくさん作れるように、さらに乳腺組織の働きも活発になっていきます。
副乳は、進化の過程で退化したものではありますが、副乳も、通常の乳房と同じようにミルクライン上にあり、乳腺とつながっていますので、乳腺組織ができる可能性があります。
産褥期になると、正常な乳腺がそうであるように、乳汁を作る働きが活発になってきますので、副乳からも乳汁が出ることがあります。
また、出産後に赤ちゃんに母乳を与えている場合、乳腺組織も活発に母乳を生成していますので、副乳も乳房と同じように張りを感じ、少量ではありますが、母乳が出ることがあります。
出生まもない赤ちゃんの胸が張り、母乳が出ることがありますが、すぐにおさまるので心配はありません。
痛みがある場合の対処法
妊娠中にもし副乳に痛みを感じたり、腫れて熱を帯びたように感じたりした場合には、患部を冷やすことがおすすめです。
副乳の部分を冷やすことで、炎症や痛みが和らぐことがあります。その際には、直接保冷剤などが患部に当たらないように、ガーゼなどに包んで冷やすようにしましょう。
一方、副乳には通常の乳房とは異なり、母乳を出す乳口がないことも多いので、活発な母乳の生成にともない、副乳の中に乳汁がたまり、乳腺炎を起こしてしまうこともあります。
乳腺炎も、冷やすことで一時的に痛みが和らいでくるものですが、もし何度も痛みなどを繰り返すようでしたら、専門医を受診しましょう。
痛みが気になるからといって、触りすぎたりすると、ますます痛みが増してしまったり、感染を起こしてしまうこともありますので、注意が必要です。
副乳とホルモンの関係性と予防法
妊娠中には、乳首や乳輪、ほくろやしみなど体中の色素が濃くなり、何となく黒ずんでいると感じることが多くなってきます。
また、毛深くなったり、さまざまな肌トラブルに悩んだりする方も増えてきます。
これらは、妊娠時のホルモンバランスの変化が、大きく影響しているものです。
妊娠時には、女性ホルモンである、大量のエストロゲンやプロゲステロンが分泌されることによって、メラノサイトという色素細胞を刺激する作用があり、肌荒れやメラニン色素の沈着などを引き起こすからだと考えられています。
その女性ホルモンの影響で、からだのあちらこちらに黒ずみができやすくなります。
また、正常な乳腺と同じように、ホルモンの分泌に大きく影響を受けますので、月経前や、特に妊娠中には今まで気付かなかった方でも、さまざまな症状を感じることがあります。
これまで気付くことがなかった副乳も目立つようになり、気になるようになる方も増えるのです。
妊娠前でしたら、色素が薄く目立たなかった副乳であっても、色素が沈着してより茶色に変色することがありますので、初めてその存在に気付くことがあるからです。
副乳に限らず、わきや乳首、陰部などの黒ずみは、妊婦さんの約9割以上が感じているものです。出産後にも完全に戻ることはありませんが、徐々に落ち着き、目立たなくなってきます。
特に産後3日から1週間頃は、母乳の生成も活発におこなわれ始める頃ですので、副乳がある方は、母乳の分泌とともに授乳期には、副乳腺が腫れてしまうこともあり、乳房の張りや強い痛みと同じように感じることがあります。
乳腺炎予防のためにも、乳房マッサージの方法を学び、マッサージをおこなうと良いでしょう。また、搾乳をきちんとおこなうことで、副乳への乳汁の流れも抑えられ、痛みが和らぐこともあります。
副乳は取り除ける?
副乳の自覚症状は個人差があり、一概には言えませんが、妊娠による乳腺の張りを感じ、稀に乳汁が出る方もいます。
また、乳房に感じる症状と同じように、痛みや熱っぽさも感じることがあります。
しかし、副乳がある場合であっても、ほとんどの場合、出産や産後、授乳に影響を与えるものではありません。
ですから、副乳は、美容的問題といった特別なケース以外には、除去する必要は基本的にありません。
中には、容姿的理由や乳汁がたまって感染を起こす疑いがあるなど、何かしらの理由があり副乳を切除される方もいます。
副乳の切除手術は、何らかの病気でない場合、美容目的の手術となりますので、美容外科や美容形成外科の扱いになります。
その場合には、保険の適用されない「自由診療扱い」になってしまいますので、費用も高額になる場合が多くなっています。
美容目的などで切除手術をおこなう場合には、その時期など、細かい注意も必要になります。
特に、第2次成長期は心身ともに大きな成長をする時期でありますが、乳房の発達とともに、乳腺組織も成長する時期ですので、切除の時期としては、一般的にふさわしくないとされています。
副乳の除去治療
もし、副乳の除去治療をおこなう場合、方法としては局所麻酔で乳腺から副乳部分を切除(除去)する方法が一般的です。
患部の切除をおこない、止血確認後、縫合になります。手術にかかる時間的は、おおよそ1ヶ所につき、30分前後の手術になります。
小さめの副乳の除去手術でしたら、レーザー治療や電気分解法などで除去することも可能です。その場合、1ヶ所5〜10分程度の手術で終わります。
患部は手術後、ガーゼでの固定になりますが、その部分以外のシャワー浴でしたら、ほとんどの場合、当日から可能になります。
全身の入浴は、抜糸後の翌日からが主で、飲酒や運動などは1週間程度控えていただいた方が良いでしょう。
副乳除去手術について、妊娠中は安定期に入るまで手術が難しいという医師や、妊娠中の手術は、全般的に緊急性がない場合にはおこなわない方が良いという見解の医師もいます。
個人の希望や副乳の状況などによっても異なりますが、どちらにしても、専門機関の診察を受け医師と良く相談の上、手術の必要性を決めるようにしましょう。
副乳ではないケースも頭に入れておこう
副乳は、ミルクライン上でしたらいくつかの場所にできる可能性がありますが、特にわきの下など、正常な乳房の周辺に副乳と思われるようなしこりや痛みを感じる場合には、細心の注意が必要になってきます。
副乳の張りやしこりのような感じは、リンパ節と間違ってしまうこともあります。
また、乳房の周辺にある副乳ですと、乳がんとの区別が難しくなります。
自己判断で副乳であると思い込んでいたしこりや痛みが、稀に悪性腫瘍や、乳がんである可能性も少なくありません。
まして妊娠時や出産後には、乳房にも張りや痛みなど、さまざまな変化があらわれやすくなります。
少しでも気になる症状を感じ、疑わしく思われる場合には、勝手な自己判断はせずに、乳腺外科など専門の医師の診察を受けることをおすすめします。
乳腺外科の場合、検査で何らかの異常などが見つかった場合でも、その後継続して受診することが可能ですので、より安心して対処してもらえるので安心です。
このような検査ではレントゲンやマンモグラフィーを使用することがありますが、微量ながらも放射能の影響に対する心配がありますので、妊娠中の場合、医師にはっきりその旨を伝えることが大切です。
妊娠中の場合、エコー(超音波)による検査方法もあります。医師の判断に任せましょう。