赤ちゃんにとって最初の食事である「母乳」、それは最高の栄養だといわれています。
ですが、赤ちゃんが1歳になる頃には、栄養がなくなってしまうという話を耳にすることがあります。
では、実際のところどうなのでしょうか?お母さんの母乳にはどんな栄養が含まれていて、その栄養は次第になくなっていくものなのでしょうか。
そして、赤ちゃんがどのくらい大きくなったら母乳をやめた方がいいのでしょう。
そこで今回は、
・母乳にはどんな栄養が含まれているの?
・母乳の栄養はなくなっていくの?
・いつまで赤ちゃんに母乳を飲ませればいいの?
といった方に、母乳に含まれる栄養価や、栄養があるのはいつまでなのか、母乳を卒業するのはいつ頃がいいのかなどについて、詳しくご紹介します。
産まれたばかりの赤ちゃんの強い味方「初乳」
初乳(しょにゅう)とは、産後すぐにお母さんの乳房から出てくる母乳のことで、産後約5日~10日ほどの初乳期間があります。
その後、赤ちゃんの成長に合わせて徐々に成分を変化させ、初乳から成乳といわれる母乳となって、長期間にわたって赤ちゃんの大事な栄養源となります。
初乳は少し黄色がかってドロッとしているのですが、黄色っぽいのはβ-カロチンが豊富に含まれているからで、とろみがあるのは水溶性ビタミンやタンパク質が多いためです。
また、生後間もない赤ちゃんを守るために、免疫調整作用や抗菌・抗ウイルス作用があるラクトフェリンもたくさん含まれています。
初乳は、それまでお母さんのお腹の中で守られていた赤ちゃんが、外の世界に出てきても強く生きられるよう、強い味方となってくれる頼もしい栄養源なのです。
母乳はお母さんの血液から作られる
赤ちゃんの成長に欠かせない母乳ですが、実はお母さんの血液から作り出されています。
お母さんの身体の中を巡る血液が、乳腺を通ることで母乳となって、赤ちゃんに栄養を与えるための重要な飲み物となっているのです。
血液から作られることから、母乳は「白い血液」ともいわれています。
ちなみに、血液が母乳になるのになぜ赤いままではないのか、なぜ血液の色である赤から白(または黄色っぽい白)へと変わるのか、それは、血液を赤くしている成分の赤血球が母乳には取り込まれないからです。
ですが、血液の中にある栄養素はそのまま母乳に受け継がれます。お母さんが食べた色々な食物から得た栄養は血液となり、豊富な栄養を含んだ血液はそのまま母乳へと移行するのです。
たとえそれが産後6ヶ月でも、生後1年でも2年でも、お母さんの血液から作られている以上、栄養素や免疫成分が失われることはありません。
母乳育児の赤ちゃんは風邪をひきにくく、たとえ風邪をひいても回復が早いといわれます。それは、お母さんからもらっている母乳に、免疫成分が含まれ続けているからなのです。
とはいえ、赤ちゃんの成長によって必要な栄養素が変わってきますので、それに伴って母乳に含まれる成分が変化することはあります。
母乳に含まれる栄養成分とは?
母乳には、赤ちゃんに必要な栄養素がたくさん含まれており、水分が多いので赤ちゃんに負担をかけることなく、大人と同様の栄養摂取ができます。
では、母乳にはどのような栄養成分が含まれているのでしょうか。母乳に含まれている代表的な成分を見てみましょう。
タンパク質
タンパク質は、内臓や血液といった身体を形成するために重要な栄養素の一つです。
母乳には、赤ちゃんが消化吸収しやすく栄養価の高い、乳清(ホエイ)というタンパク質が豊富に含まれています。
脂肪
脂肪は、赤ちゃんの大切なエネルギー源となってくれます。そして特筆すべきは、1回の授乳の飲み始めと飲み終わりで、脂肪の含有量が変化することです。
飲み始めは脂肪分が少なくサラサラした状態ですが、徐々に濃くなっていき、飲み終わり頃には3~5倍ほどの濃度になっています。
適切なタイミングで適切な量を与える母乳は、この含有量の変化から「赤ちゃんのためのフルコース」とも呼ばれています。
ミネラル
ミネラルには、骨の形成に欠かせないカルシウムや、心臓や筋肉の機能調整に必要なカリウムなど、体内では作り出せないため、食べ物から摂取しなければならない成分も含まれています。
そして、ミネラルの摂取量は、多すぎても少なすぎても健康によくありません。
母乳には、ミネラルの過剰摂取にならないよう、赤ちゃんの身体に最適なミネラルバランスの量が含まれています。
アミノ酸
アミノ酸も身体を作っていくためには欠かせない栄養素です。しかも必須アミノ酸は体内で作り出すことができません。
母乳には、必須アミノ酸はもちろん、グルタミン酸やアスパラギン酸などの豊富なアミノ酸がバランス良く含まれています。
ビタミン
母乳には、免疫力を高めるビタミンA、骨の発育を促してくれるビタミンD、抗酸化作用があるビタミンE、脳や体の成長に必要な葉酸を筆頭に、さまざまなビタミンが多く含まれています。
ただし、骨を強くするために必要なビタミンKは、母乳中に不足しがちなビタミンとなっています。
そのため、ビタミンKの不足からくるビタミンK欠乏症を予防する目的で、1ヵ月検診の時などにビタミンK2シロップを赤ちゃんに飲ませます。
オリゴ糖
母乳には、赤ちゃんのお通じをスムーズにするオリゴ糖も含まれています。
便秘で苦しくなった赤ちゃんは、不機嫌になってぐずったり泣いたりしがちで、赤ちゃんの便秘は、お母さんにとっても心配の種となります。
母乳に含まれるオリゴ糖が、赤ちゃんの便通を良くしてくれることで、お母さんの心配事が一つ解消されます。
また、オリゴ糖には体内のビフィズス菌を増やす働きもありますので、赤ちゃんの腸内環境を健康的に保つことができます。
母乳に栄養があるのはいつまで?
母乳は、赤ちゃんの成長に合わせて栄養バランスが変化していく、いつまでも栄養たっぷりな、赤ちゃんにとって最適な栄養源です。
免疫物質や抗菌物質が多く含まれているため、免疫面でも唯一無二の飲み物となっています。
では、その高い栄養価はいつまで続くものなのかというと、母乳が出ている間はずっとです。
ただし、母乳の栄養価はそのままでも、赤ちゃんが成長するにつれて、母乳の栄養だけでは足りなくなるというのが正解です。
産まれてすぐの赤ちゃんと、生後6ヶ月の赤ちゃんでは明らかに大きさが違います。身長も体重も比べ物にならないほど成長します。
それほど大きくなって、これからもっと成長する赤ちゃんには、母乳だけでは栄養がまかないきれなくなるのです。
そのため、生後6ヶ月頃からは母乳と並行して、離乳食を始めることが推奨されています。
母乳の栄養や免疫成分がなくなるわけではないので、あくまでも「並行して」です。離乳食を始めても、積極的に授乳するよう専門の医師もすすめています。
母乳だけでは足りない栄養を補うために「補完食」を
日本には昔から「離乳食」という言葉があります。離乳食という言葉には、乳離れをして母乳から食事へ切り替えるための準備、という意味合いが含まれています。
しかし、WHO(世界保健機関)では離乳食ではなく「補完食」と呼んでいます。
主体となるのはあくまでも母乳で、母乳に足りない栄養を補うための食事だという意味です。赤ちゃんは、生後6ヶ月頃までは母乳だけで必要量を満たすことができます。
ですが、満1歳を迎える頃には、出産時のおよそ3倍もの体重になるので、そんな赤ちゃんの急激な成長を支えるにはたくさんの栄養が必要となり、母乳だけでは充分ではなくなるため、母乳を補う補佐役として「補完食」を始めるのです。
WHO(世界保健機関)は母乳を2歳以上まで飲ませることをすすめている
WHOは、母乳の持つたくさんのメリットに重きを置いており、ガイドラインには「母乳は、補完食を始めていても2歳以上まで続けるべきで、子どもが要求するならばいつでも何度でも頻繁に与えましょう」と推奨しています。
その理由として、
・母乳は補完食よりも質の高い栄養素を含んでいるため
・赤ちゃんを守ってくれる防御因子も与え続けられるため
・母乳は病気の時の重要なエネルギー源と栄養源になるため
・母乳育児は急性の病気のリスクや慢性の病気のリスクを減少させることができるため
という事柄が挙げられています。
また、母乳でまかなえるエネルギーについて、月齢6ヶ月~12ヶ月の子どもには必要なエネルギーの半分以上が、月齢12ヶ月~24ヶ月の子どもには必要なエネルギーの3分の1までが、母乳でまかなうことができるとしています。
そして、どの月齢であっても変わりなく、さまざまな質の高い栄養素が母乳から与えてあげることができます。
さらに、補完食が進んで母乳を飲む回数が減ってきても、お母さんは積極的に授乳して哺乳量を維持するよう提言しています。
母乳に足りない栄養素「鉄分」
母乳には、赤ちゃんの成長に必要な栄養素がバランス良く含まれていますが、鉄分はどうしても不足しがちです。
生後6ヶ月頃から急激に成長する赤ちゃんには、母乳に含まれる鉄分だけでは不充分なのです。
女性にはもともと鉄分不足から貧血になってしまう方も多く、鉄分がたっぷり含まれた母乳を出すには、お母さんが食事に気を配らなければなりません。
ですが、どんなに気をつけても、やはり赤ちゃんが大きくなれば補いきれなくなります。
ですから、お母さんが自身の食事に鉄分を摂り入れるだけでなく、赤ちゃんの補完食にも鉄分が含まれた物を摂り入れてあげましょう。
母乳はいつまで飲ませればいい?
厚生省は以前まで、生後9ヶ月~1歳ぐらいに断乳することをすすめていました。ですが現在、母子手帳から「断乳」という言葉は削除されています。
母乳が、子どもの身体の成長だけでなく、心の成長にも重要な栄養素となる事実が重要視されたためです。
母乳をやめる時期は、お母さんと赤ちゃんによってそれぞれ違います。いつが正解ということはなく、お母さんと赤ちゃんの双方が納得した時に母乳を卒業するのがベストなのです。
ちなみに、母乳を終える時には、赤ちゃんが母乳を欲しがらなくなって自然に終わる「卒乳」と、お母さんが母乳をやめる時期を決める「断乳」があります。
どちらが良いということもありませんので、お母さんと赤ちゃんの状況によって一番良い時期を決めましょう。
母乳をやめるメリットとは
母乳育児は、赤ちゃんにとって栄養面でも精神面でも良いことづくめです。
ですが、どのお母さんも潤沢に母乳が出るわけではなく、母乳を与えることで負担を感じる場合もあります。
環境によっては、母乳を与え続けるのが困難なケースもあり得ます。そんな場合にはいっそ断乳した方がメリットがあるかもしれません。
たとえば、母乳が充分に出ていないのではないか、栄養は足りているのかと悩む必要がなくなります。
また、ミルクや補完食に移行できれば、お母さんは授乳時間に縛られずに、一人の時間を作ることができます。
赤ちゃんの腹持ちも良くなるので、夜中に授乳する必要もなくなります。お母さんも赤ちゃんも、朝までぐっすり眠れるかもしれません。
さらに、これまで母乳を通して赤ちゃんに悪い物を与えないようにと我慢していた、お酒やコーヒーや甘い物なども気兼ねなく口にできます。
身体の具合が悪い時も、躊躇せずに薬を飲んで体調を改善することができます。赤ちゃんを育てていく上で、お母さんの心身の健康はもっとも重要な課題です。
「母乳育児が続けられないなんて母親失格なのでは」などと考える必要はありません。
現在の環境と状況をよく考慮して、母乳をやめた方が赤ちゃんもお母さん自身も今より良い状態になると判断したのなら、思い切って断乳するのも一つの方法です。
母乳をやめるデメリットとは
では逆に、母乳をやめることで起きるデメリットとはどんなことでしょう。一番に挙げられるのは、赤ちゃんがぐずったり寝かしつける時の対処に困るということです。
赤ちゃんは、おっぱいを口に含むことで精神的に安定します。母乳を与えないとなると、最後の手段ともいうべき授乳ができません。
断乳によって、赤ちゃんを落ち着かせるのに一苦労することは覚悟しておきましょう。これまで以上に抱っこしてあげたり、スキンシップをたくさんとるように心がけてください。
そして、母乳がたくさん出ていたけれど断乳せざるを得なくなったお母さんは、母乳がいつまでも出たり、おっぱいが張って痛かったりします。
放っておくと乳腺炎になってしまう危険性もありますので、しっかり搾乳するようにしてください。
まとめ
赤ちゃんに母乳を与える時間は、母と子が触れ合う大事なコミュニケーションの時間でもあります。
栄養面も考えなければなりませんが、何より赤ちゃんの心の拠り所となる母乳育児を楽しみましょう。
授乳中に分泌される幸せホルモン「オキシトシン」には、抗ストレス作用・抗不安作用・子宮を収縮させる働きもあります。
赤ちゃんもお母さんも幸せにしてくれる母乳育児は、いつまでもずっと続けられるものではありません。
いつかは終わる日が来ることを念頭において、赤ちゃんと一緒の楽しい時間を満喫してくださいね。